2064
「2064」
艶やかな銃声
おでんの大根を口に含むと
辛子のツンとした香りが
鼻腔の奥を抜けていく
その最中に思い出す
第四隊の仲間には
しばらく連絡をとっていない
ちりじりになって
凡ゆる苦悩と反吐を共にして
蒟蒻をつつくと思い出す
手榴弾のピンを集めるのが癖の
中山は
45日目のパレスチナで死んだ
一番仲が良かった
土嚢に連なって
放物線の先を笑い合った
狂気を共有して
少ない食料を分け合った
あいつの眼鏡は
どうして丸かったのだろう
記憶の中では笑っている
けれど
本当に笑っていただろうか
ベルトに通した手榴弾のピンが
パンクスを思わせた
中山は最後に殺せと泣いた
玉子の黄身をつゆに溶かす
混濁した生命の足跡
ワルツ
燕尾服は千切れ
金の為の機械
ドレスの中の戦争
荘厳な旋律にはいつも
悲劇がついてくる
和やかな景色も
黄土色の飛沫に染まる
土鍋の廻りを
雄叫びが燃え盛り
青も赤も緑もばら撒いて
ゴポゴポと破裂音を散らす
「弱火にしてください」
とAIが告げる
その途端衝動的に
自動拳銃を撃とうとしたが
撃てなかった
撃つことを許されなかった
焔は燃え続け
鍋は空炊きしていた
煙が立ち込める
ギラリとひかる眼
2064日目の朝