an untitled
目を開けるとそこは、大きな老舗の百貨店でした。柱や天井の切れ間に歴史を感じさせる黒ずみが見え、ずっしりとした重厚な空気が店内に緊張感を漂わせているが、それが自信によるものなのか不景気による消沈によるものなのかは分からなかった。何故ならこの…
庵野杏が行方不明となって三日が経とうとしていた。僕はあの記録的大雨の日から風邪で床に伏せていた。涙と熱と汗でぐちゃぐちゃの身体はカンピョウを蒸した様な塩梅ですこぶる調子が悪く、朦朧とした頭は終日生命維持だけが生業だった。世間はてんやわんや…
激しい雨が降っていた。突風に舞い、十円玉は有ろうかという雨粒が、目の前の風景をスノーノイズの如く覆っていた。 突然の事に通りの人達は高架下に駆け込み、ずぶ濡れになった衣服をハンカチやハンドタオルなどで拭くが焼け石に水だ。直ぐにグッショリと濡…