もういいのです
もういいのです
いいかげん 諦めてしまいなさい
慎ましくしめやかに
落葉の中をダンスするように
わずかばかりの麦を分け与えるように
豊穣の神が怒ったとしても
私だって腹が立っているのです
ひりつく儲け話も
邪魔になるだけで
最後の晩餐だと
また明日も言いながら
フォークを温める
ナイフをマサカリ投法で投げる
投げられた王は覚醒し
カンフーのアクロバティックで
円錐形の橙色を仰け反らせる
誰もがビーチフラッグに群がる
脳髄を急ピッチで立ち上げる
南西の風やや左向きに炎上し
あけすけの太陽に
また懲りもなく名をつけようとする
赤く灯る悪魔
トップ下頼りで
急勾配の株式市場に
ほくそ笑む死神と
ありきたりの真夜中
大混戦の様相を呈しており
右向かいの呉服屋は
大滝の流れみたいに仕舞い出す
休まる所を知らないのに
肉体は留まっていて
精神の先送りに
虹を見た事はあるのでしょうか
「盲目的に隷属する事は誰だって嫌だろう
自由という言葉の甘さを知ってしまっては
煌びやかな遊郭が開けっ広げになっているように
そんな直接的な煩悩ではないにしろ
誌面の奥に感じるキナ臭さよりも
冬の匂いに懐かしさを感じる方が健全だ
という洗脳にも似た価値観を破棄せよ」
合わせ鏡に吹き込まれる
襟を正してズボンを下ろし
履いてきた靴を右手に嵌めて
左手のスマートフォンに
明日の生きかたを聞く
途端ひっくり返る
何故こうも納屋の奥は暗いのか
誰もいないはずの闇に
無限の雑言が蔓延り
結末までのプロットが用意されている
アスタリスクの先に
自分の物語を見つけた時
私はただただ発狂し
狂うというのは正常ではない事だと
当たり前を自覚するぐらい狂い
物哀しさと嘯く季節に反抗する気持ちを交えながら
適当な混沌と安っぽいカタストロフの中を
一生彷徨い続けるほかないと悟る
それもいいかと
ささやきにもたれ掛かるように
皮張りの未来に体重を預けると
嘘みたいに軽くなった肉体が
月の横に鎮座していた
ような気がした
夜空にナイフが投げ込まれ
大きく裂けると
鹿の内臓が飛び散った
それは私のもので無かったが
同時に私のものであるようでもあった
堕胎する放物線
中庭で待つ子供
健やかなる虚に巣食う
本当の残穢
西日暮里にだけ降る集中豪雨を黒崎町で見ている時のような
疎外感&安堵
釣り堀に垂らすドッグフード
陽光がまばらな直線で
地面に当たり
跳ねている
そこに季節外れの紫陽花が照らし出されていた
あるいはそれは
ベランダに干された下着だったのかもしれない
どちらが真実であったにしろ
目の前の世界は
過去であるという認識をしている
私はどこにいるのだろう
七色に光る罪が
青空に切り込まれている
次第に遠のいていく
何も見えなくなって
カキャと混じる束の間
諦めだけはつけることができた
生活
君の明日は
あいも変わらず一色足らない虹色のようで
胡乱な影が埋め尽くしている
珈琲屋を血眼に探す
19時のモーニングの需要を考える
本屋で立読みをすると
ぼんやりした頭にひらひらと文字が霞んでいく
朝に会えるはずだった鳥を
互い違いに埋めていくヒヤシンスを
懐古主義の鈍く光るスプーンで掬うと
車厘を踏台にしたホイップが煙の中に揺れる
角度を鋭敏に捉えると
握りの甘い苦味が
当直の赤髪の弁当売りを
なにか同情とも哀れみとも応援とも
一目惚れとも違う感情で
視界の端っこで
尻目で
見切れて
いってしまったあと
昔住んでいた木造の一軒家の
鍵を開ける感触を思い出した
どういうはずか
布丁を探していたはずなのに
淡い幻想は一瞬で食べ尽くされてしまうのに
そのことで今や昨日、3年後が変わるはずもないのに
家の書棚に蟷螂を見つけた時のような
虚を眺める実像としての動きに
疲れたタイル地のコバルトブルーを添える
そんな行為に見出すのは
シュールさの怠慢ではなく
ただ或るはずの後ろめたさだ
Gペンで直線を走らせるように
定義やDNA
原子の歪みを正せたなら
溝に落ちた符丁など気にすることもなく
満遍なく凸凹をならして
マッチングサービスの左を無くし
乳飲子の薬指に南蛮漬の唐辛子をはめてあげるのに
雑草に名前があるように
雑念にも名があるのなら
図録を買って見せびらかしたい
本を繰る感触に
3つの雑念がある事を教えたい
橙色のラムプに
人間は今もノスタルジーと破壊を見るか
主で或るはずのパドルに
日光浴の最終的な局面に
輪廻82回目の最中に
漉餡か粒餡か決めかねている人指し指に
細部に宿るはずのものは
大局にはいないのか
概念は内面の許容量次第で
数字の1の大きさは
万人に平等ではないように
パイソンを躊躇なく屠ることは
プログラミングされていない
生活
いかされることのない痛みや喜びを
それと定義づけることは浅はかにも思える
しかし往々にして
我らが先祖の背中には
いつも石膏板の穴のような暗闇があって
贅沢な迷いをまっすぐ進みながら
囀りに耳を貸すことも
肩を組んで笑い泣き
噛み締めた何かを
舐め尽くすこともできる
行為を宥め賺し
冷やした生垣に刺さる西日が
もう少しズレてくれればいいと
願うことで
今日が終わってしまうのもよいのかもしれない
そんな日は
珈琲でも飲まなければ
明日にかかる過去との分岐点が
錆びたカラビナのように見えてしまって
やりきれない
もう少し純度の高い
距離と度数があれば
測りきれない羅列を
迎え入れられるのに
ソーサーにカップを置く音が聞こえる
添えられた鈍く光る明日が
過去と同じ目をしていたはずで
フェリー乗り場に佇むように
水面を反射させていた
セリヌンティウスが
欲しいと思った
僕は
昨日
斜め向かいの猫も
黙って日溜りに揺れているだけだったから
けれど僕は
正直者ではない
誠実さの欠片もない
僕を信じているのは僕だけで
時計の針に怯えて
只管の外灯の温もりを
甘んじて享受する術を持った小人だ
と
分析していたとき
鉛筆を走らせる音に混じって
ブラジルに雨が降ったのだった
2年後
僕らは互いに
なし崩し的に
敬意を持って
車前を踏み散らしながら
アルプススタンドの端で
声を枯らしながら
過去を吐瀉塗れにした
濡れたパーカーは投げた
9回裏は信じられなかった
信じてもいなかったものに裏切られた
小麦粉と水を中途半端に混ぜたような感情が
土足で踏み入れてくるのを許してしまった
笑いたい
笑いたい
笑っていた
笑う
笑ってしまった
笑い合ってしまった
涙もついでに流れた
笑え
もっと笑え
笑う
もっと早く笑う
笑い合ってしまっていた
これは そうでしかなかった
嬉しい
溜息と共に
これからが入り込んでくる目眩がきた
クラクラする
手と手が結ばれる
感情線がギザギザの手が
神経を愛撫する
小指の先には
いつまでも自分らしさが構えている
しかし白球に祈りを捧げても
無神論者の神はこともなげに
否決した
チクリと針が小窓を刺す
「アイガーリー」
歓声の中で
それだけが聞こえた
笑っていた
笑ってみませんか
君は去れども