手を繋いで文化は廻る

世界のあらゆる文化は須く全て繋がっている。それらは互いに手を取り合い、共存共栄し、高めあい、人々をより豊かにする。私は自身が得た文化の一端を伝えていく事でその一助となりたい。

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【ショートショート】焦点

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 「分かんないわ。今の事しか」

 そう言って、俯いて黙ってしまう君や、君の周りの薄ぼんやりした風景を、コンビニの防犯カメラみたいに一点からただ眺める事しかできなかった。手を差し伸べる事も、未来に目を向けさせてあげる助言も、世界で上手くやっていく術も、足元に茂る「雑草」と括られてしまった植物の名前も、街灯が何で僕たちを照らす事が出来るのかも、街灯に群れる蛾の習性の理由も、君に一番似合う服のブランドも、明日の天気を教えてあげる事も、君に好きだと言う事も。

 

 あれから数日経つが、僕から彼女に連絡をする事はなかった。彼女からもない。彼女の「りょ」を最後にトークは鳴りを潜め、既読表示が僕達の関係をエンド・オブ・エタニティのハンドガンのように確定したみたいだ。

 

 Instagramを開くと、彼女は何事もなかったかのように笑顔を切り取って貼り付けている。心の中にドス黒い感情が蠢いているのが自分でも分かる。一切の痕跡を消して回りたくなり、アカウントを削除してしまおうかと思ったが、すんでの所で我に返った。自分の築き上げた未来への布石をこんな色恋如きで無かったことにしてしまうのはもったいない事だと自分を諭した。

 

 気を持ち直すと、努めていつもの様に「♯教育改革」と銘打った映えもへったくれもない長ったらしい文章を投下した。いつもよりいいねは少なく、フォロワーが三人程減った。

 

 全く世界は何処まで狂えば気が済むんだっ‼︎相席食堂のちょっと待てぃボタンみたいに壁を思い切り殴りつけてやると、隣人が壁ドンを返してきて「形変えてしまうぞ」と怒鳴られた。

 

 形を変えてくれるなら、僕は詩を載せられた紙片となって、神保町にある古書店で雑然と投げ売りされている一冊の中の一ページとして埋れていたい。いつか誰かがそのページを開いて、僕を見つけ出してくれたらいい。僕を眺めて、僕の奥にある無限の世界に心を羽ばたかせて、僕を繰り、僕の裏側を暴く。僕を通り過ぎて、また違った世界を旅して、現実と幻想の中を行ったり来たりして、この世の不確定性に希望を見出せばいい。

 

 そして、出来ることなら、彼女にこそ僕を見つけ出して欲しい。まぁ、そんな事ありはしないし、例えもしあったとしても、パラパラと流し読みされて、元あった所に戻されてしまうだろうが。それにそもそも彼女が古書店になど行くはずが無い。我ながら手前勝手な妄想だと失笑し独りよがりな空想に一区切りつけるとベランダに出て、四月の夜のまだ少し肌寒い風に煙草の煙を浮かべながら、くっきりとした満月に焦点を当てた。